法コラム

全国賃貸住宅新聞 第13回第973号
原子力事故の風評被害により、賃貸物件に入居者を集めることが困難になった場合、原子力事業者(電力会社)に対して損害賠償請求できるかについて検討します。原子力に関わる損害については、民法の一般不法行為の特則として「原子力損害の賠償に関する法律」(略称:原子力損害賠償法)が制定されています。この法律には、原子炉の運転等の際に発生した原子力損害は、原子力事業者が、賠償責任を負うものと定めています(同法3条1項)。
報道によれば、今回の事故は原子炉の運転等の際に発生したものと言えますので、当該法律が指定する原子力損害に該当するものと解されます。しかし、例外として異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって事故が生じたものである場合、原子力事業者は賠償責任を免除されると規定されており、仮に今回の事故が異常に巨大な天災地変により発生したものとであるとされれば、原子力事業者は賠償責任を一切負わないとされます(同法3条1項ただし書)。
しかし、同法では、原子力事業者の賠償措置額である1200億円を超える損害であり、かつこの法律の目的を達成するために必要と認める場合には、国が必要な援助を行うとされており(同法16条)、また異常に巨大な天災地変として、仮に原子力事業者の賠償責任が免除された場合でも、国が被災者の救助及び被害の拡大防止のための必要な措置を講ずるようにするものと定めています(同法17条)。損害賠償と保険業務を行う専門組織を設立する案が政府内で浮上しているとの新聞報道もありますが、いつ、どんな補償を国が行うかについては、政府の決定をまたなければ分かりません。
次に入居募集が困難になったことが、原子力損害といえるかどうかですが、原子力損害とは、核燃料物質等の放射線の作用等により生じた損害をいいますので(同法2条2項)、今回のような風評による営業上の損害も原子力損害に含まれるといえます(東京地裁判決平成18年4月19日)。ただし、賃貸物件の募集が困難になったことと、原子力事故が、相当因果関係があると認められなければ、損害賠償請求を行うことは難しいでしょう(東京高裁判決平成17年9月21日)。例えば、賃貸物件の所在地、入居募集の困難度、近隣の賃貸物件の様子など総合的に勘案して、相当因果関係が認められるとされれば、巨大な天災地変による免責とされないかぎり、原子力事業者に対する損害賠償請求が認められる可能性は高いといえるでしょう。
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